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「三十郎大活劇」のこと

2022.3.11

「三十郎大活劇」のこと

 「三十郎大活劇」は1994年にラッパ屋の第19回公演として上演された。(@青山円形劇場)。戦前から戦中にかけての日本映画界のお話だ。無声映画からトーキーへ。痛快な活劇から戦意高揚の国策映画へ。時代の変遷に巻き込まれる映画人の悲喜こもごもを、大部屋俳優からスターへ駆け上がっていく紅三十郎を中心に描いている。当時のキャストは三十郎が木村靖司、恋人の芸者・おやつが和田都、友人の助監督・淳平が福本伸一、相棒の生涯大部屋俳優・ガンさんがおかやまはじめだった。

 その「三十郎大活劇」が新たなキャストで上演される。(4月2日~17日@東京・新国立劇場 4月23~24日@大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール)。演出はラサール石井さん。三十郎役は劇団EXILEの青柳翔さん。そのほかジャンルを超えて賑やかな顔ぶれが大結集。ラッパ屋からは福本伸一と弘中麻紀が、そしてラッパ屋ご贔屓にはお馴染み、松村武さんも出てくれる。

 書いた当時、僕は35歳で、ラッパ屋では「腹黒弁天町」「阿呆浪士」「三十郎大活劇」と3本上演した年だ。バブルの残り香が漂っていて、今と比べれば世間のアドレナリン値はずいぶん高かったように思う。僕はまだ広告会社の正社員で、二足の草鞋で全力疾走していた。忙しかったなあ。毎日が綱渡り。でも面白かった。その感じが、戦前の映画人の心意気とシンクロしたのかもしれない。若くてやんちゃな日本映画のエネルギーとバブル直後の時代のエネルギーが僕の中でブレンドされて、睡眠不足で大放出されたアドレナリンの力を借りて書き上げた芝居、だとも言える。

 いま読み返しても元気いっぱいですな、このホンは。台詞も人物もエピソードも熱い。熱すぎて馬鹿になっちゃったみたいな人がいっぱい出てくる。物語の後半、三十郎とスタッフは国策映画を撮るため大陸に渡る。戦火の中、お蔵入り承知で自分たちの映画を撮ろうと撮影を続行する。大馬鹿ですな。でもだからこそ、いま観てほしい。合理性やクレバーさを求められる世の中で注意深く暮らしている皆さんに。伝わるかな。伝わると嬉しいなあ。

 コロナや戦争のことで、いま僕らの心には重たい雲が垂れ込めている。時代をさかのぼれば、ぶ厚く重たい雲を振り払おうと、あきらめずバタバタもがいた人たちがいる。そんな人たちのことを思い出すとなんだか勇気づけられる。「三十郎大活劇」が皆さんの心の雲をちょっとでも振り払えたら幸い。良かったら、是非。

鈴木 聡

鈴木 聡 プロフィール

1959年東京都生まれ。
早稲田大学卒業後、広告会社博報堂に入社。コピーライターとして活躍。1983年サラリーマン新劇喇叭屋(現ラッパ屋)を結成。現在は、演劇、映画、テレビドラマ、新作落語の脚本執筆など幅広く活躍。ラッパ屋『あしたのニュース』、グループる・ばる『八百屋のお告げ』で第41回紀伊國屋演劇賞個人賞、劇団青年座『をんな善哉』で第15回鶴屋南北戯曲賞を受賞。
近作に、モボ・モガ『君の輝く夜に〜FREE TIME,SHOW TIME〜』、明治座『ももくろ一座特別公演』、俳優座『われらの星の時間』『七人の墓友』、東京ヴォードヴィルショー『終われない男たち』、パルコ『恋と音楽』シリーズ、わらび座『KINJIRO!』『為三さん!』、『夢食堂の料理人』(NHK・19年)、『三匹のおっさんリターンズ』(テレビ東京・19年)など。