劇団ラッパ屋

鈴木聡のたま~にエッセイ

国本さんと「阿呆浪士」

2019.12.18

国本さんと「阿呆浪士」

 浪曲師の国本武春さんは「ニッポンの宝」という感じがする人だった。声は明るく張りがあり、芸人さんらしい晴れやかなエネルギーが溢れている。実力は超一流。その上、時代を捉えるセンスもある。洋楽も大好きでギターやバンジョーも弾く。一般には馴染みの薄い浪曲の面白さを世の中に伝えようと、時にロックのリズムも取り入れた。(そのエンターテイナーぶりは「国本武春 浪曲の楽しい聞き方」などYOUTUBEの動画でお確かめください)。国本さんを知る誰もが「浪曲の未来を背負っていく人だ」と思っていた。

 その国本さんは、2015年12月12日に、当日の公演のリハーサル中に倒れた。14日は赤穂浪士の討ち入りの日。本番では十八番の忠臣蔵の一節を唸る予定だったのだろう。5年前にも倒れ無事復帰していたのだが、今回は回復せず、クリスマスイブの日に天に召されてしまった。55歳。早すぎた。

 僕は1996年に大阪の近鉄劇場で上演された「ABCミュージカル 狸」の仕事で国本さんと知り合った。(脚本・演出を僕がしたのです)。その力量と人柄にシビれ、98年、ラッパ屋の「阿呆浪士」(@新宿シアタートップス)に出演してもらうことにした。この芝居は94年に青山円形劇場で初演している。再演にあたって何か新しい演出をしたかったのだ。

 「阿呆浪士」は忠臣蔵を下敷きにした話である。魚屋の八がひょんなことから討ち入りに参加してしまう。国本さんには「唸り屋三味蔵」という、物語と観客をつなぐ語り部の役をやってもらい、浪曲パートの台本もお任せした。国本さんは唸り、弾き、客席をあおり、作品に新しい輝きをもたらしてくれた。小さな劇場を大改造し、昔の芝居小屋に見立てたこの舞台は、キャスト・スタッフにも観客の皆さんにも、とりわけ記憶に残る一作になっていると思う。そしてその記憶の真ん中に、国本さんの張りのある声と晴れやかな笑顔があるに違いない。

 この「阿呆浪士」が久しぶりにパルコ・プロデュースで上演される(2020年1月8日~24日@新国立劇場 中劇場 1月31日~2月2日@森ノ宮ピロティホール)。演出はラサール石井さん。戸塚祥太さん(A.B.C―Z)をはじめ若く元気のいい俳優さんたちがたくさん出演してくれる。ラッパ屋の舞台では八を演じた、われらがおかやまはじめも出演。ラッパ屋ファンにはもうお馴染みの松村武さんも出てくれる。国本さんの役割を引き継いでくれるのは、いま大活躍の女性浪曲師、玉川奈々福さん。「七福亭玉千代」として国本さんとは一味違う艶やかな唸りを聞かせてくれると思う。これも楽しみ。

 芝居は映像とは違い上演が終われば消えてしまう。だが時に映像作品より深く、心に残る。ラッパ屋がやった「阿呆浪士」の心が若い俳優さんたちに受け継がれ、国本さんの心が奈々福さんに受け継がれ、新しい観客の皆さんに届けばいい。ぜひ、観に来てください。

鈴木 聡

鈴木 聡 プロフィール

1959年東京都生まれ。
早稲田大学卒業後、広告会社博報堂に入社。コピーライターとして活躍。1983年サラリーマン新劇喇叭屋(現ラッパ屋)を結成。現在は、演劇、映画、テレビドラマ、新作落語の脚本執筆など幅広く活躍。ラッパ屋『あしたのニュース』、グループる・ばる『八百屋のお告げ』で第41回紀伊國屋演劇賞個人賞、劇団青年座『をんな善哉』で第15回鶴屋南北戯曲賞を受賞。
近作に、モボ・モガ『君の輝く夜に〜FREE TIME,SHOW TIME〜』、明治座『ももくろ一座特別公演』、俳優座『われらの星の時間』『七人の墓友』、東京ヴォードヴィルショー『終われない男たち』、パルコ『恋と音楽』シリーズ、わらび座『KINJIRO!』『為三さん!』、『夢食堂の料理人』(NHK・19年)、『三匹のおっさんリターンズ』(テレビ東京・19年)など。

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