キャスト
- 安田
- 熊川隆一
- ユキ子
- 和田都
- 直子
- 溝口直子
- ママさん
コーラス - 平野裕美
- 萱野忍
- 深澤美恵
- 武隈繁美
- 佐々木一美
- 大草理乙子
- 早川晃子
- 平田恵子
- 植木
- 竹内義明
- 谷
- 岡山一
- 犬塚
- 与儀省司
- 桜井・ハナ
- 福本伸一
スタッフ
- 作・演出
- 鈴木聡
- 美術
- 枡岡秀樹
- 照明
- 板谷静男
- 音響
- 祇園幸雄
- 舞台監督
- 村岡晋
- 宣伝美術
- 山田英幸
- 協力
- ウエストコート
高津装飾美術
演劇集団キャラメルボックス
劇団てあとろ50’
島田麻子
山岸みすず
加藤法子
- 制作協力
- 加藤昌史・佐々木直美
(ネビュラプロジェクト)
- 制作
- 喇叭屋制作部
- 企画・製作
- サラリーマン新劇喇叭屋
NTTはロマンチック
ちょっと気のきいた女のコなら2度や3度は「真夜中のHな電話」という災難に会っている。話に聞くとバリエーションは豊富で「ハーハー息を荒げる」「チョメチョメとつぶやきつづける」「オレのはでかいと自慢する」などがあるらしい。アイヅチをうつのもなんだし、やっぱり少し困る。
そこへいくと「真夜中の間違い電話」などはなかなかロマンチックだ。「もしもし、あら間違えちゃった、ごめんなさい」とかかってきたら「間違いじゃないさ、ちょうど誰かの声を聞きたかったんだ」なんつって会話をつなぐ。「昨日は何してたんだい?」「バカだから忘れちゃった」「明日は何するの?」「バカだからわかんなーい」と打てば響くように会話は弾む。やがて名前も告げずに電話は切れ、男は乏しいイマジネーションを駆使し、「間違い電話の女」を夢想する。「家は笹塚あたりかな」(ほんとは亀有)。「スポーツはテニスかな」(ほんとは登山)。「ダンスしてるってジャズダンスのことかな」(ほんとは南国舞踏)。いつしか男の夢想はキラキラと、シャボン玉のようにふくらんでいく。そして夜が明ける頃、男はそのシャボン玉をこわさぬようそっと抱き、幸福な顔で眠りについた。か、どーだか。
さて「シャボン玉ビリーホリデー」は風俗営業の新種「テレフォンクラブ」のお話である。通称「テレクラ」。ヒマをもてあました主婦やOLや女子大生がイタズラ心でダイヤルを回す。テレクラの小部屋ではサラリーマンたちが根性いれて、受話器から噴きだすシャボン玉を待ち構えている。これは、出会いのドキドキやワクワクが減っちまった世の中を、けなげに盛り上げる実にモダンなシステムなのだ。テレクラの暗いイメージを、一新する、きれいなお芝居にしたいと思う。シャボン玉ホリデーのようにスーダラで楽しく、ビリーホリデーのようにホロホロせつなく。テレクラしたいサラリーマン、ちょっとかけたい淑女の皆さん、そしてもちろんNTTの方にもぜひ見ていただきたい。真夜中にかかる間違い電話のロマンチックをお届けしよう。
ある告白
告白いたします。私がはじめてテレフォンクラブへ足を踏み入れたのは、去年の12月のことでした。忘年会のあと仕事仲間と酔ったイキオイで、というよくある話でございます。店の名前は「恋愛日記」。せつなく甘い思い出をくれそうな、そんな名前が気に入りました。会員になるため、受付に免許証を見せたとき、「ああ、もう戻れないんだな」とほろ苦く感じたことを憶えています。
最初にとった電話は、西武線沿線のスナックに勤める離婚歴のある女性からのものでした。お客来ないから帰ろうと思ってタクシー呼んだんだけどまだ来ないのよ、といういかにも電話に手が伸びそうな状況だったようでございます。それから彼女の身の上話がはじまりました。7年続いた結婚生活の破綻。店のお客である、すこし太った年上の男性とのロマンス。あたかも小説のページをめくるように、会ったこともない彼女の人生が見えました。20分の会話の間に、私は彼女の歴史を早送りで生きたのでございます。
次にとった電話は、夫が海外出張中の小金井に住む人妻からのものでした。隣の部屋には4歳になる息子さんが寝ています。テニスに興じ、カルチャーセンターに通い、白と赤、2台のスカイラインを持つ、世に言う有閑マダムの方のようでございました。ヒマと退屈をもてあました素敵な小金井ライフ。15分の会話の間に、私は彼女の心にズームアップしたのでございます。
気がつくと、私は彼女たちのたんなる日記帳になっていたのでした。いわゆるひとつの、金をとられてグチこぼされた。「こういうの期待してたわけ?」と苛立つ私のHな心を、「いい経験だったじゃないか」と頼りない私のインテリジェンスが無理矢理さとしつつ、テレフォンクラブの夜は白々と明けたのでございました。
もちろんもっといい思いをしている男性諸氏もたくさんいらっしゃいます。私の力量が足りなかっただけでございます。「悔しいから芝居にしようか」夜明けのゴミ箱をあさるポチにそう話しかけると、「好きにしたら」と尾を振りました。
というわけで、今回のお芝居はテレフォンクラブがテーマです。なお「シャボン玉ビリーホリデー」という素敵なタイトルは、チラシをデザインしてくれた山田君が、残業帰りのタクシーの中で思いつきました。残業もたまには善行を働きます。