キャスト
- 松村猛
- 福本伸一
- 茂子
- 弘中麻紀
- 野口文夫
- 宇納佑
- 信子
- 和田都
- バッキー
- 竹内義明
- 山崎
- 義若泰祐
- ナナ
- 深澤美恵
- 邦子
- 武隈繁美
- 三平
- 与儀省司
- 小百合
- 溝口直子
- 富子
- 大草理乙子
- 大西
- 岡山はじめ
- 沢井
- 木村靖司
- 梅子
- 平田恵子
- 森本
- 小川圧司
- 秀美
- 平野裕美
- トモコ
- 星野菜穂子
- バンドマン
- 大竹達也
三浦景虎
(声の出演)
- 実況アナウンサー
- 相島一之
丸山秀人
スタッフ
- 作・演出
- 鈴木聡
- 美術
- キヤマ晃二
- 照明
- 板谷静男
- 音響
- 藤居俊夫・早川毅
(ステージオフィス)
- 衣裳
- 竹内美佳
- 振付
- 大内悦子
(M&Eスタジオ)
- 舞台監督
- 村岡晋
- 音響操作
- 島猛
(ステージオフィス)
- 大道具
- C-COM
- 小道具
- 高津装飾美術
- 演奏指導
- 竹内義明
- 宣伝美術
- 芹沢ケージ
冨宇加淳
与儀法子
- 制作協力
- ネビュラプロジェクト
樹下更紗
角守由美
- 制作
- 早川晃子
山家かおり
- 企画・製作
- ラッパ屋
事のはじめは竹内で、僕が気まぐれに買った大橋節夫を聴いていたら「それいいね」と言う。じゃあハワイアンでもやるかい、ということになりとりあえずお茶の水にスチールギターとウクレレを買いに行った。そしたら深澤の友達にハワイアンダンスの先生がいて女の子は習おうかということになる。一方、格闘技好きの和田がボクシングのルポルタージュを貸してくれて、ボクシングもいいなと思った。そういえば福本の弟はボクサーだったと思い出し、教えてよと頼んだら教えてやるよと言ってくれた。ハワイアン、ボクシング、ときら昭和30年代じゃないか、自分が生まれたころの感じかなと思い、記憶の糸を手繰りよせる。正体は分からないけれど、あの頃の熱のようなものに赤ん坊だった僕は憧れていた。そのへんがポイントだよね、とまた成り行きだけで芝居ができる。一体どういう台風なんだろう。
そのホテルの名前は「かもめホテル」と言った。ちょうどソ連がロケットを打ち上げ「私はカモメ」というセリフが話題になっていたころだからよく覚えている。
僕はまだ小学生に上がる前の小さな子供で、両親とその友人家族と海水浴に来た。生まれて初めて海に足を浸した夜、母に連れていかれたホテルのバーで、これまた生まれて初めてコカコーラを飲んだ。ジュークボックスからは英語の歌が流れ、サーフィンを抱えた男や女が大きな声で笑いながら出入りしていた。僕はアメリカがどこにあるのか知らなかったが、ここはアメリカのようだと思った。
バーの一隅には小さなステージがあり、ちょうどコーラを飲み終えた時、バンドの演奏が始まった。バンドはハワイアンバンドで、歌っている女の人は昔レコードを出したことがあると聞いた。その声は、楽しい歌の時も少し悲しかった。
演奏が佳境に入ったころ、入口のスイングドアからやくざっぽい一人の男が入ってきた。サングラスをかけ、だぶだぶの白いズボンをはき、魚の模様のアロハシャツを着ている。真っ黒に日焼けしたマスターは「ボクサーだよ」と母にこっそり耳打ちした。
しばらくボクサーは壁によりかかり注文も忘れて演奏を聞いている風だったが、突然、ステージの方へ真っ直ぐ歩き出した。あわてたようにマスターがカウンターから飛び出し、がっしりした肩をつかむ。だが、その手はゆっくり振り払われた。バンドは演奏を中断し、バーは異様に静まり帰った。僕は帰りたくなって母の袖を引っ張ったが母はステージを見つめて動こうとしない。息苦しい沈黙の後、ボクサーは、女の人に低い声で何かを言った。女の人は答えず、おもむろに歌の続きを歌いだし、バンドが追いかけるように演奏を再開した。
ボクサーが椅子を一つ蹴飛ばし出ていくと、バーは何事もなかったように陽気な喧騒を取り戻した。女の人が、昔レコードになったという歌を歌い、客たちは大喜びで拍手した。母はサザエの壺焼を注文し僕に食べさせたが、固くて噛めず、半分残した。
その夜のことが忘れられず今日の芝居になった。
と書ければいいが、ほんとを言うと、そんなシャレた思い出は僕にはない。
だってテレビを見てたんだもん。何とも悔しい、残念だ。
だから僕らは舞台でつくる。