劇団ラッパ屋

第26回公演
『凄い金魚』

1997年11月25日(火)~12月14日(日) 24ステージ @シアターVアカサカ

第26回公演『凄い金魚』
第26回公演『凄い金魚』
第26回公演『凄い金魚』

キャスト

高野幸太郎
木村靖司
片島直樹
福本伸一
松岡侘介
岡山はじめ
高野英太郎
宇納佑
高野文子
和田都
高野聖子
弘中麻紀
橋本洋子
大草理乙子
鍋島大吾
俵木藤汰
御手洗正雄
熊川隆一
兼松吾郎
岩本淳
音無静江
竹内晶子(客演)
奥田夏子
岩橋道子
京香
渡辺絵里子
南原利明
竹内義明
多田清三
義若泰祐

(声の出演)

高野潤三
市来邦比古

スタッフ

作・演出
鈴木聡
美術
キヤマ晃二
照明
佐藤公穂
音響
島猛
(ステージオフィス)
衣裳
吉岡香
舞台監督
村岡晋
音響操作
長柄篤弘
(ステージオフィス)
舞台監督助手
酒井詠理佳
大道具
C-COM
拓人
小道具
高津映画装飾
宣伝美術
芹沢ケージ
冨宇加淳
舞台・パンフレット写真撮影
木村洋一
宣伝
吉田由紀子
当日運営
お手伝いの皆様
樹下更紗
梅﨑之梨子
鈴木三樹子
会沢恵理子
鶴岡千秋
武隈繁美
池田真紀子
伊佐治孝由
小川富美子
佐久間綾子
渋谷佐代子
鳥山良介
中島まり子
中村真紀子
福本綾子
松尾亜里子
本岡博
吉澤和子
制作協力
ミーアンドハーコーポレーション
えとせとら・eye
ネビュラプロジェクト
竹内美術印刷
黒田成伸
制作
山家かおり
早川晃子
江口紀子
平田恵子
椎名浩子
助成
芸術文化振興基金助成事業
企画・製作
ラッパ屋

第26回公演『凄い金魚』

パンフレットより

ダサイ家

 廊下がある。匂ってくるような便所がある。庭には金魚の泳ぐ池がある。「凄い金魚」の舞台装置は東京の住宅街の、僕が育った家に似ている。芝居の設定ほど広くはなくて、四畳半が二つ、六畳が二つ、八畳の座敷とピアノを置いた応接間、あのころの日本家屋としては標準的なものだろう。薄暗くて安普請でなんだか建てつけが雑だった。隙間風が寒い。雨戸がガタピシ閉まらない。「雨戸も閉められないのかお前は」とオフクロに怒鳴られながら「ああ、もっとカッコイイ家に住みたい」と心の底から思っていた。
 家もダサかったが家に集まってくる人たちもダサかった。魚屋、三河屋、洗濯屋、御用聞きのオニイチャンたちがいつも庭で油を売っていて、僕と遊んでくれるフリをしながらプロレスのワザを試すのだった。思えば近所もそうとうダサく、目の前は肉屋、毎日トラックがどこからか牛や豚を運んで来る。バス通りの向こうは炭屋。きったねえオッサンと炭で真っ黒になったクロという名の犬が並んで日向ぼっこする。角の文房具屋のおネエチャンにいたっては器量が悪くてオツムが弱くて「嫁にいけるといいねえ」と噂になるほどダサかった。
 気がつけば、そういうダサいものは姿を消して、いまではカッコいい家で育ったカッコいい子供たちが、カッコいい町を歩いている。電車の中で彼らの会話を盗み聞くにつけ、「ちくしょう、俺ももう少し遅れて生まれていれば、あんなにかわいい女子高生とすぐにヤレるカッコいい若者になれたのに」と悔しさで胸がいっぱいになる。
 雨戸も閉められない自分の情けなさを彼らは知らずにすむだろう。大人たちへのアイソの陰で「坊ちゃん」にプロレスの技をかける魚屋の痛々しいバイオレンスを彼らは見ずにすむだろう。つり銭を渡す薄幸の娘の背中を見守る文房具屋のオバサンの切ない息づかいを彼らは経験することなしに、カッコいい大人になってゆく。
 おそらく僕らはダサい町のダサい家で育った最後の世代なのだ。そのめぐりあわせを幸運に思わなくてはいけない。いつか日本国は僕らをまとめて人間国宝に指定し「ダサい暮らしを語り継ぐ人々」として大切に扱うべきなのではないか。年金ふやしたりして。

上演記録

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