キャスト
- 山岡大介
- 福本伸一
- 財前涼太
- 木村靖司
- 小雪
- 和田都
- 権田原校長
- 岡山はじめ
- 村井尻教頭
- 宇納佑
- 篠崎美智子
- 溝口直子
- 大金田
- 与儀省司
- 源蔵
- 竹内義明
- 鳴海百之助
- 義若泰祐
- 百合之助・
芸者亀松 - 弘中麻紀
- 玉五郎・
芸者おこた - 深澤美恵
- 鳴海花子・
横井川先生 - 平田恵子
- 芸者梅奴
- 平野裕美
- 芸者鬼やんま
- 星野菜穂子
- 芸者金太郎
- 渡辺絵里子
- 北枕先生・
猪ノ吉 - 岩本淳
- 坂田先生
- 小川圧司
- おとど
- 奈良谷優季
- 辰
- 大竹達也
- 虎
- 三浦景虎
スタッフ
- 作・演出
- 鈴木聡
- 美術
- キヤマ晃二
- 照明
- 板谷静男
- 音響
- 藤居俊夫・早川毅
(ステージオフィス)
- 衣裳
- 竹内美佳
- 舞台監督
- 村岡晋
- 音響操作
- 島猛
(ステージオフィス)
- 大道具
- C-COM
- 小道具
- 高津映画装飾
- 宣伝美術
- 芹沢ケージ
冨宇加淳
与儀法子
- 制作協力
- ネビュラプロジェクト
角守由美
久保孝一
- 制作
- 早川晃子
山家かおり
樹下更紗
- 企画・製作
- ラッパ屋
腹黒い、といえば思い出すのはまず校長先生ですな。これは「坊ちゃん」のタヌキからの連想。それから芸者さんも腹黒い。手練手管で旦那を騙しますからな。当然、政治家やヤクザの親分、浪速商人も腹黒いけど、女子高生あたりもなかなかです。かわいい顔してウラで何やってるんだかわかったもんじゃない。そう考え出すと夫も妻も腹黒い。部下も上司も腹黒い。世の中、腹黒だらけ。「でもよ、だから面白いんじゃねえか」と、ご隠居が言う。「上手に嘘をつくために気の利いた言葉をこしらえる。相手の心を読むためにピピーンと想像力が進化する。色恋だってそうよ。ウソとマコトの丁丁発止がドキドキワクワクさせるんじゃねえか」。なるほど、さすが年の功。「近頃はいやだね。みんな本音を言いたがる。野暮だね。ナマナマしくっていけねえや」。それならご隠居、弁天町へお連れしましょう。この町の連中はみんな口先三寸。芸者も校長も親分も女学生も、どうも信用できません。町中を真っ黒な腹が走り回ってまさあ。「面白そうだな、そこやっとくれ」。へい、お安い御用で。さ、この源蔵の人力車にお乗りなせえ。
弁天町探訪記 パンチョ鈴木
弁天町はいまでこそネオン輝く歓楽街であるが、このお芝居の舞台となるのは、人力車が颯爽と走り抜け、名高い弁天芸者が闊歩していたころの弁天町である。東京で言えば神田須田町界隈であろうか、昔の面影がそっくり残っている一角がありまことに味わい深い。芝居にも登場する料亭もっきり屋はここにあり、いまでは滅多に注文されないというイナゴの佃煮も品書きには載っていた。
「芸者さんは呼べるのですか」と聞くと、呼べることは呼べるがおすすめは出来ないという。シワだらけの超ベテランばかりだし座敷もぞんざいで、はとバスの花魁ショーのようにすっかり観光化されているようなのだ。「いまはほかのお遊びがありますからねえ」と人の好さそうな女将は溜め息まじりに呟いた。現在の弁天町は性産業も盛んである。札幌のすすきのを思わせるソープランドビルまである。
料亭の庭は取り壊されいまではカフェテラスになっている。かつては庭の真ん中に立ち、人々の様々な願い事を受け止めた弁天様は、裏の土蔵の中にひっそり眠っていた。そのお顔を眺めていると、昔日の弁天町のさんざめきが聞こえてきそうで、一瞬、タイムスリップした感覚に襲われる。
役場を訪れると大変な歓待を受けた。世話をしてくれた広報課の課長は四十歳前後とお見受けしたが、その表情や振る舞いは、世間の垢をたっぷりすりこんでかえってピカピカに光っているような貫禄があり、圧倒的な存在感を放っていた。まだ日が高いというのに酒を茶碗についでくれ、事務所の冷蔵庫からキャビアの瓶詰を取り出し、大きな声で町の歴史やエピソードを話してくれた。キャビアも少し生臭かったが、話はもっと生臭かった。
夕暮れの密峰山に登ると、町が一望に見渡せた。ここでこうして、色町華やかりしころ、星雲の志を持った青年達も町を眺めただろう。そしてきっと、芸者との甘い恋に胸をとろかせ、生臭い現実に立ち向かっていく自分を複雑な思いで見つめたのだろう。それは大学を卒業し社会に出る時の私自身の思いと重ね絵になる気がした。
芝居ができた経緯については口上で述べるから割愛するが、主人公はそうした二人の若者である。昔日の弁天町に東京から赴任してきた新任教師である。彼らは朗らかに互いの夢や世間の悪口を語り合いながら14時間の長旅を終え、腹黒い誘惑や陰謀が渦巻く弁天町へ、いま、到着するところだ。