キャスト
- 田原俊夫
- 福本伸一
- 岡部今日子
- 溝口直子
- ヘレン
- 和田都
- 的場博美
- 木村靖司
- 井崎修
- 岡山はじめ
- 菅原幸子
- 大草理乙子
- 柴田達
- 義若泰祐
- 横山一郎
- 与儀省司
(声の出演)
- 実況アナウンサー
- 竹内義明
- 場内アナウンサー
- 深澤美恵
スタッフ
- 作・演出
- 鈴木聡
- 美術
- キヤマ晃二
- 照明
- 板谷静男
- 音響
- 早川毅
(ステージオフィス)
- 衣裳
- 竹内美佳
- 舞台監督
- 村岡晋
- 音響操作
- 島猛
(ステージオフィス)
- 大道具
- C-COM
- 宣伝美術
- 与儀法子
- 制作協力
- ネビュラプロジェクト
樹下更紗
角守由美
- 制作
- 早川晃子
山家かおり
平田恵子
- 企画・製作
- ラッパ屋
私は昨秋から競馬を始めた。
以来、毎週馬券を買い、毎週さまざまな真理に到達する。
「穴馬は人生の風穴である」
「人は週に一度、敗北を味わいたい動物だ」
「何が起こるかわからない、そんな世界を男は愛す」
色紙なら何枚でもかける実力を磨いた私だが、
まだ一度も当たった試しがない。
ビギナーズラックもない。
根本的に向いていないのかもしれない。
だが、いまのうちに、競馬の芝居をつくっておこうと思った。
いまだ恋を知らぬ乙女ほど、
ロマンティックな恋の詩を書けるというではないか。
スターライト競馬場のこと
もう10年も前のことだから記憶は定かではないが、その競馬場へはたしか地下鉄を乗り継いで行ったと思う。
駅から地上へ上がるとガランとした寂しい空地で、こんなところにほんとうに競馬場があるのかい、と私は案内してくれた友人に尋ねた。ヘッヘッヘあるんですぜ旦那、と友人はなぜか安キャバレーの客引きのように笑い、ヒョイヒョイと水たまりを起用によけながら私を導いた。たしかに、あった。閉鎖された印刷工場の向こうに、それはこつ然と現れた。「STAR LIGHT PARK」と英文字で書かれたネオンが暮れなずむ空に美しかった。さあ今夜は王様のように遊びましょうや、友人がラスベガスの詐欺師のように私の尻をぽんと叩いた。
【営業時間】開門は午後5時である。毎日5レース、真夏と真冬を除き、月曜から金曜まで週5日開催されている。第1レースは通常7時に出走。だいたい10時までにはすべてのプログラムが終了する。ただレストランやバーは深夜まで営業し、儲けた男から再び吸い取る仕組みになっている。第2レースと第3レースの間にはサーカスや演奏などのインターバルショウが行われ、これを目当てに訪れる好事家も多い。
【施設】スターライト競馬場は充実した娯楽設備が売り物だ。ロブスター料理を目玉にするメインレストランをはじめ、ハンバーガーショップ、クレープ屋、ピザハウスなどが軒を並べる。馬肉料理専門店もかつてはあったが、客が入らず店じまいになった。ブースをつなぐ通路に沿っては有名な「STAR LIGHT BAR」のカウンターがあり、ここのチーフバーテンダーはギムレットをつくらせたら世界でも指折りと言われている。もちろん、競馬場だけに、オケラになった人のための飲食店も用意されている。名物は「モツ煮込み丼」350円。大穴当て、優越感にひたりながらこの煮込み丼を食うのが、通のぜいたくだそうだ。
【内馬場】ファミリー向けの設備も充実している。コースの内側には小さな遊園地があり子供たちを楽しませている。観覧車、メリーゴーランド、鏡の部屋、射的、カンガルーのボクシング場。その素朴さは最新の遊園地とはほど遠いが、かつてのコニーアイランドを想わせる無邪気な華やぎに満ちている。この子といつか馬券を買いたい、そんなことを考えながら父は息子を木馬に乗せるのであろうか。
【競馬】この競馬場で走る馬は中央競馬でも公営競馬がでも見かけたことのがない。だがほかで走るどんな馬よりもここの馬は不思議な気品に満ちている。それは、夜だけを走るからであろうか。カクテル光線に浮かぶ栗色のあるいは白の、黒の、その姿は美しく、ゴールを過ぎても夜の闇をぐんぐん押して走る。この競馬場の馬は朝に向かって走るから美しいのだ、と呟いた老詩人がいる。彼はノミ屋に300万円の借金をし、逃げて行方不明になったが高崎でだるま弁当を売ってるのを見た人がいる。
【女】儲けた男に、女はつきものだ。スターライト競馬場でも、バーに、払い戻し窓口に、柱の影に、多くの曰くありげな女たちがたむろしている。そのなかの一人とひょんなことから話をしたが、彼女たちは決してほかの風俗店に流れるようなことはないという。馬で儲けた後の世界を征服したような顔が好きだから、競馬場の男しか相手にしないのよ。話をするだけのつもりだったが、ひょんなことからホテル代込みで4万円とられた。
さて私がスターライト競馬場へ行かなくなったのは、案内してくれた友人が外国へいってしまったからである。あまりに突然のことで事情を聞く暇もなかった。姿を消して3年後、忘れていたころ絵ハガキが届いた。写真はどこといって特徴のないお城だった。住所も書かれておらず、消印もうすれて読めなかった。「競馬にはゴールがありますが、この逃げ馬にはゴールがありません」あの老詩人と似たような事情なのだなと思った。「でも後悔はありません。夢を見ずして何が人生でしょう、ご友人」その文字は、グレート・ギャッツビーのように微笑んでいた。